日本or西洋、どちらを飼うのがいいの?

ホンミツバチ、セイヨウミツバチ、どちらを飼うのがいいのかという議論。

これは、「生物学的にどちらが飼いやすいのか?」というミツバチ側の特性の話と、「飼う人がどちらに向いているか?」という人間側の性格の話と、二つのテーマに分けて考えるべき問題です。

ニホンミツバチ

まず、生物学的な話から。

東西どちらも飼っている私としては、どっちでもいいのでは?なんなら両方飼ってしまえばいいのでは?と思います。どちらもApis属の生き物で、基本的には同じような生活をしていますので、両者を飼うことでミツバチへの理解がより高まります。養蜂場を二つ用意できれば、二刀流で両方飼うのがいちばんいいのかもしれません。

気性についても、セイヨウミツバチは日々優しく接すればみんなが言うほど狂暴化しないし、ニホンミツバチはみんなが言うほどおとなしくもない場合もあります。無王化したニホンミツバチなんかはキレッキレにキレてて、セイヨウミツバチの方が断然扱いやすかったりもします。危険性という意味では両者変わりません。

採蜜量に関しては、流蜜期の瞬間採蜜量はセイヨウミツバチの方が多いけれど、セイヨウミツバチは長雨や蜜枯れ期には餓死しそうになったりもします。その年の気象条件によっては給餌が必要になることも多々あります。一方、ニホンミツバチは瞬間採蜜量は低い代わりに餓死はほぼしません。蜜源植物が少なすぎる場合、餓死する前に巣を捨てていなくなりますし(苦笑)。給餌のマイナス分を含めた年間カロリーベースで考えるなら、ニホンミツバチもセイヨウミツバチも採蜜量はそんなに変わらないのではと思います。

また、対ダニ農薬の煩雑さに関しても同様で、セイヨウミツバチのヘギイタダニは化学農薬に頼らずとも乳酸スプレー処方で何とかなります。これは家庭でも簡単にできる方法です。逆にニホンミツバチを完全放任にせず、アカリンダニ対策のメントールなどを使う人も多くいます。

こうして生物学的な観点から見てみると、一般に考えられているほど両者の飼いやすさに差はありません。それよりももっと大事なことは、飼う人間の性格が和洋どちらに向いているか?ということだと私は思うのです。

ニーチェのセイヨウミツバチ、老子のニホンミツバチ

セイヨウミツバチ

私が、セイヨウミツバチと二ホンミツバチどちらも飼ってみて、つくづく思うことがあります。それは、両者は全く別の哲学で向き合う必要があるということです。ハチの東西は、哲学の東西に通ずる所が大いにあります。

セイヨウミツバチは、デカルトの合理主義、あるいはニーチェが「ツァラトゥストラ」で人々に語ったような人間の意志や創造性の延長線上で飼ってこそ、その真価を発揮する「家畜」なのだと思うのです。つまり、能動的な介入(額面蜂児を作る、給餌する、スズメバチから守る、ダニ駆除するなど)を絶えず続けることで、最大限の生産性を目指す人間の創造的行為としての養蜂が向いているということです。

一方、ニホンミツバチは、老子の教えを反芻するように内省的に、飼うというよりむしろ人の方が飼われるようなイメージで、手出しをせず放任で、自然の成り行きに任せて、来るもの拒まず去る者追わず、無為の姿勢で取り組む養蜂が向いていると思うのです。無為自然の成果物を人間が少しだけ横取りするのもまた自然。そんな緩い関係性で接するべき野生の生き物なのです。

私もいろいろ失敗してますし、友人たちの失敗例などもたくさん見てきましたが、大抵の場合、この哲学があべこべになっているときに失敗するんですね。セイヨウミツバチなら「ダニ駆除をせず自然任せにして全滅した」とか「給餌が足りなくて越冬群が出来上がらない」とか。ニホンミツバチは「内検しすぎて逃去された」とか「分蜂を制御しようとして無王群になって消滅」とか。西洋思想でニホンミツバチを飼うと失敗するし、逆もまた然り。

おそらくこれは偶然ではなく、東西のミツバチの進化と家畜化の歴史と、東西の思想哲学の醸成された背景に、それぞれの地理的な環境要因が深く関連しているからなのでしょう。乾季と雨季がはっきりしている西洋と、いつでも湿潤で緑豊かな東洋、そこで進化した生き物と人々の思想が似てくるのは必然なんだと思います。ある種の収束進化ともいえるでしょう。

現代人はともすれば西洋思想にとらわれがちなので、そのまま意識せずニホンミツバチに接するとだいたい失敗します。逆に、無為自然の老子的マインドでセイヨウミツバチを飼うなら、相当注意しないと群れを失います。

最大採蜜量を求めて能動的な養蜂をするのか、それとも庭先に老子先生をお招きするイメージなのか、自分がどちらの哲学で養蜂に挑むのかをしっかり定めることが、東西どちらを飼うかを選択する際の最も重要な要素となるでしょう。

などと高尚なことを言いつつ、私は、自然巣でセイヨウミツバチを飼ったり、巣枠で二ホンミツバチを飼ったりと、あべこべなことをいろいろ試しているんですがね。まだまだ無為自然の境地にはなれないなあ。