日本蜜蜂養蜂

ニホンミツバチの養蜂は、庭に老子をお招きするようなもの。

放任に近い形で、手を出さず、自然の成り行きに任せる。来るもの拒まず、去る者追わず。無為自然に彼女たちのやりたいようにやらせる。

これを意識することがまず第一の、何より重要な心構えです。

巣箱は重箱か、丸胴か、巣枠か?

スムシがわいたらどうする?給餌は?

冬の保温はどうしよう?

そんなことは考えなくても構いません。とまでは言いませんが、あくまで非介入主義、これを通底に置くことが大事です。

多くの場合、人間の介入は迷惑でしかなく、それこそ春の入居と秋の採蜜以外一切手出ししないくらいの放置飼育が結果的に一番成績が良かったりします。

と、いろいろ介入して失敗してきた私は、自分に言い聞かせてます(笑)

2025年の夏に巣枠式で飼っていたニホンミツバチ2群に逃げられて、現在はニホンミツバチロスの状態の私ですが、こうなってみて初めて、無為自然の飼育哲学のようなものを学べた気がしています。

巣枠式巣箱で飼っていたニホンミツバチ

とはいえ、失敗も成功も、まずは始めてみないとわかりません。以下に、捕獲から飼育、採蜜までの流れをざっと説明しておきましょう。

準備

ニホンミツバチもセイヨウミツバチも、日々優しく接することで人に慣れますから、よほど隣の家に近いとか、集合住宅のベランダとかでない限り、安全に飼育できます。こちらから何もしなければ、刺すことはありません。巣箱の前を半ズボンで歩いても全然大丈夫です。

飼育を決めたら、なるべく早く(できれば前年の年末くらいまで)に巣箱を準備します。新品の巣箱は木の匂いが強いため、しばらく雨ざらしにして匂いを抜きます。その後、3月ごろになったら、ニホンミツバチの蜜ろうを巣箱内部に塗って匂い付けを行うとなお良いでしょう。ハチは新築物件よりも居抜きの中古物件が好きなためです。まあ蜜ろうを塗らなくても入るときは入りますが。

巣箱の置き場は、朝日は当たり西日が当たらない東向きの木陰などがベスト。近年の夏の日差しはハチにとって過酷すぎるので、どちらかというと日陰よりの場所が適してます。

落葉樹(これは柿)の東側に置くのが、夏は日陰で涼しく、冬は陽が当たり暖かく、理にかなっている。

誘引&捕獲

家の周りの花を観察してみて、そこにニホンミツバチが来ていたら、半径2㎞圏内のどこかに巣があるはずです。ニホンミツバチ飼育は、春にその巣から出た分蜂群を巣箱に取り込むことから始まります。

ニホンミツバチの分蜂群を庭に招くには以下の3つの方法があります。

まず、巣箱を置いてそのまま待つだけというやり方。この場合、よほどニホンミツバチの生息密度が高い場所でなければほとんど入居には至りません。というか、そもそも巣箱を見つけてもらえません。ニホンミツバチ入居のチャンスは主に春の分蜂期だけです。春に入居しなければ、ほとんどの場合来年までお預けなので、時間が無限にある若者以外にはお勧めしません。

次に、キンリョウヘンを待ち箱の隣に置く方法です。キンリョウヘンの花は、分蜂期のニホンミツバチを強く引き付けるフェロモン様物質を放出しています。その物質に引き寄せられた探索バチが、隣にある巣箱を見つけてくれるのです。キンリョウヘンは、新居のテナント募集の看板みたいなものなのですね。私の体感では、キンリョウヘンの誘引効果により、巣箱を見つけてくれる確率が10倍以上に増えるように思われます。

最後が、分蜂して蜂球になっている群を強制捕獲して巣箱に押し込める方法です。この場合、運よく蜂球を見つけることが必須条件です。が、これがなかなか簡単には見つからないもので、わたしも野生群の蜂球を見たのはいままでで数えるほどしかありません。知り合いや友人に広く声をかけ、蜂球を見つけたら連絡をもらえる体制を整えておきましょう。

上記3つのうち、最も手軽でそこそこ入居率が高いのが2番目のキンリョウヘンを置くやり方で、私は、キンリョウヘン生産農家として、そのお手伝いをできればいいなと考えています。

キンリョウヘンを置くとすぐに、数匹の探索隊がやってきた。

キンリョウヘンはこのように鉢ごとすっぽり入るネットに入れて巣箱の真横に置きます。みつばちによって受粉が成功してしまうと、その花茎の他の花はしおれて誘引力を失ってしまうからです。また、受粉によって実をつけたキンリョウヘンは、種子生産に体力を使うので、その後の新芽の発達が遅れます。ミツバチ誘引に使う場合、実は着かせてはならないのです。

ミツバチが入居したら

キンリョウヘンに寄せられた分蜂群が巣箱に入居したら、鉢をどかして構いません。ほかの待ち箱の誘引に使うのもいいでしょう。

入居後は、あまりあれこれと触らず、やさしく見守ってあげてください。

これは丸太をくりぬいた巣箱の群れ。
旋風の様子を見ているだけで癒される。

埼玉県では、ここ3年ほど、夏の猛暑が厳しすぎて、入居年の秋の採蜜は行えませんでした。人が採るほどに蜜源の余剰がなかったのだと思います。

ハチは、人間のために蜜を貯めているわけではなくて、自分たちの越冬のためのエネルギーとして貯めています。特にニホンミツバチの採蜜は、あくまでも彼女たちの余剰分を分けてもらう意識で、巣枠式なら巣枠1、2枚とか、重箱式なら5段あるうちの1段くらいにしましょう。5段のうち2段も採ったりするならば、その群れは消滅に向かうでしょう。

5段のうち1段が採れそうでも、重箱をあけてみたら巣がスカスカな場合もあります。その場合は、採蜜は中止して、そっと元に戻しましょう。人間本位ではなく、ハチ本位で考えること。これが肝心です。

巣枠式の蜜巣1枚から、500mlくらいの蜜が採れる。
巣をザクザク刻んでざるに入れ、重力に任せて落ちるのを待つ。

実は、巴里沙農園では、今後ニホンミツバチの採蜜はしなくてもいいかな、なんて思ってます。

セイヨウミツバチも飼っているので、蜜はそちらからいただこうかと。

というのも、近年の夏の気候があまりにも過酷で、自然界にはもはや人間が分けてもらえるほどの余剰分はないのではと思えるのです。ニホンミツバチ飼育は、野生のミツバチが庭に住み着いているだけの状態で、そこに採蜜圧をかけることは、地域全体の個体群数を減らすことになりかねないかと危惧しています。

ニホンミツバチは、哲学の先生として、または無為自然で気ままな友人として、お互い不干渉な緩い関わり方で我が家の庭にいてもらえたら、それだけで十分に豊かだなと、今はそう思っているのです。