キンリョウヘンは中国南部原産のラン科の植物です。中国南部といっても、標高は高く(300~1500m)、冬季の最低気温がしばしば氷点下になるような、どちらかというと温帯に近い気候帯が原産地のようです。そのため、沖縄などの亜熱帯気候よりも、四季のしっかりある九州以北~関東までの温帯気候によりよく適応しています。
実際、九州や四国、静岡、千葉などの海沿いの湿潤なエリアでは、栽培株から逸出した実生のキンリョウヘンが巨木に着生して野生化しています。つまりキンリョウヘンは、日本の気候下でも、無肥料、無農薬、天水のみ(木の上なのに!)で雑草のように育つほど丈夫な植物なのです。
巴里沙農園では、国産広葉樹樹皮チップを使用し、キンリョウヘン本来の生育環境を再現した栽培法なので、ある程度放任気味に育てても大丈夫。むしろ、水やりしすぎ、施肥が多すぎる、冬に暖房をするなど、過保護の方が問題になります。このページでは、キンリョウヘンの栽培のポイントを紹介します。
置き場所(春から秋)
春から秋のキンリョウヘンは、屋外で雨のあたる風通しのいい明るい木陰などに置きましょう。
キンリョウヘンは寒さには強く、4月の遅霜や11月の初霜程度なら軽く当たっても問題ありません。強い霜が降りる前、12月初旬ごろまで、そのまま管理してください。
また、キンリョウヘンは意外に強光に強く、原種系の縞のない品種などは、夏の直射日光下でも古い葉が葉焼けする程度で、完全に枯れることはありません。むしろ弱光下では花芽を付けないなどの症状が出ます。原種系で遮光率30%、葉芸種で遮光率60%程度の遮光ネットの下、もしくは木漏れ日下(20000~50000ルクスの範囲で、原種系は明るめ、葉芸種は暗め)で育てましょう。スマホに照度計アプリを入れれば、理想の明るさが具体的にわかりおすすめです。
鉢は地面に直接置かず、裏返した園芸用トレーなどで10cmほど浮かせて置きます。


置き場所(冬)
巴里沙農園のある埼玉県飯能市の冬の瞬間最低気温は-7℃ほどになります。2024年末は最低気温-5℃近辺の日が一週間ほど続いたこともありました。そんな環境で、実験的に20鉢、私の家の南側の軒下の壁沿いに鉢を並べて越冬したところ、一部の株の葉先がやや枯れ込んだものの、ほとんどの株が大したダメージもなく無事に越冬できました。寒冷紗被覆などはしていません。
このことからキンリョウヘンは、霜が直接降りない環境で、最低気温がー5℃程度であれば、屋外で越冬可能といえます。軒下で、パオパオなどの不織布を1枚被せれば、越冬環境としては十分です。


もしも寒さが心配なら、暖房の入っていない縁側や南向きの窓際に置きましょう。(ミスマフェットは耐寒性が低いため、降霜前に縁側等に避難してください)
いずれにしても、直接霜に当てない、日当たりは良い場所で、この二つの条件が揃えば中間地での越冬に支障はありません。上の写真のように葉が黄色っぽくなりますが、これはキンリョウヘンが自ら葉緑素の量を調整しているためで、春になると回復します。心配はいりません。
暖房はランの年間生育サイクルが狂うため不要です。
水遣り

キンリョウヘンの原産地は、中国水墨画の舞台となった武夷山周辺で、年間降雨量が多く、毎日のように朝霧に包まれる環境です。日本の野生株も、池や川の傍の巨木に着生して生えていることが多いようです。キンリョウヘンは基本的に水が好きな植物なのです。
そのため、春・秋は3日に一回、夏は毎日、夕方から夜の時間帯に、鉢底から流れ出るくらいタップリと水をかけてあげてください。
冬はだいたい週に一度、朝のうちにやります。(凍害防止のため)
とはいえ、上記の水やり間隔はあくまでも目安ですから、雨が降ったら潅水を控える、調子が悪い株は間隔を伸ばす、など調整してください。私の師匠、大石氏は、鉢の総重量が10%軽くなったタイミングで潅水を行っていました。まめな方は鉢の重さで判断すると確実です。
なお、共生菌のバランスが整っていれば、水やりの方法が原因となって軟腐病等にかかることはほぼありませんから、葉の上からジャージャーとかけてしまって構いません。
一つだけ注意するべきことがありまして、真夏のとても暑い時期の暑い時間帯(午前8時以降)に水やりすることは控えてください。日差しで水がお湯のようになり、株へのダメージとなります。
肥料

巴里沙農園のキンリョウヘンは、樹皮チップメインの用土で栽培しているため、玉肥などの有機肥料は使わなくても大丈夫です。有機質や微量ミネラルは樹皮チップに豊富に含まれているからです。ですが、高炭素の用土に窒素分を補う必要がありますので、春の植え替え後または花後に、パチンコ玉くらいの大きさのIB化成90日タイプ等の緩効性肥料を1~2粒与えます。(窒素換算で100~200㎎くらい)
秋には、生育が旺盛な株はIB化成1個を、9月中下旬ごろに追加で与えます。普通の生育のものは秋はあげなくてもかまいません。
肥料に関しては、ある程度まではやればやるほど大きくて濃緑の葉がつきます。が、そういう株は総じて病気にかかりやすくなります。巴里沙農園では、自然の雨水(窒素濃度1㎎/1Ⅼ)が年間で100~200Lほど降り注いだのとの同等の施肥量を心掛けています。株のサイズはやや小さくなりますが、締まっていて花付きのいい株になります。
植え替え&株分け
基本的には芽が動き出す直前、桜の咲くころに行います。
ミツバチ誘引用で花を咲かせた株の場合、葉芽がまだあまり動いていないので5月下旬ごろまで行えます。
用土は、巴里沙農園のオリジナル用土がおすすめですが、森に行って新鮮な広葉樹の倒木から樹皮を採取し、それを20mm角くらいに刻んだものでも大丈夫です。樹皮:炭:鹿沼土=5:1:0.5で混ぜると年間通して適度な保湿性を持った用土ができます。
詳しくは、キンリョウヘンの植え替え&株分け方法へ
害虫対策
キンリョウヘンには虫がほとんど付きませんので、特に対策はいりませんが、樹皮チップを餌にするコガネムシ系の幼虫が用土に入り込むと、チップが分解されて土状になり、水はけが若干低下します。植え替え初年はほぼいませんが、2年目の鉢にはそこそこ入り込むようです。致命的な被害ではありませんが、気になる場合はダイアジノンなどで駆虫してください。
花芽

花芽は、春に生まれた新バルブの基部に着きます。去年や一昨年のバルブには付きません。
花芽の元はだいたい8月ごろから形成され始め、10月か、遅くても11月中旬までには目に見える大きさに成長します。
秋にバルブの基部を見てこのような赤くてぷっくりとした花芽があれば、その株は来年の春に開花します。(白花原種は黄緑色の花芽がつく)
花芽は、鉢の乾燥がひどいと落ちてしまいますから、冬も週一回の水やりを怠らずに養生しましょう。
開花調整
キンリョウヘンを屋外で越冬させた場合、自然に開花するタイミングは5月初旬ごろとなります。(埼玉県の場合)これはミツバチの分蜂ピークよりもやや遅いタイミングです。そのため、分蜂時期に開花時期を合わせるために、1月~2月初旬ごろから室内に取り込んで促成栽培する必要があります。
ここで注意するのは、暖房のついている室内ではなく、玄関や縁側など、無暖房で日のよく当たる場所に取り込むということです。暖房がついている部屋に置くと、開花が早すぎたり、急激な温度変化で花芽が落ちることがあります。
また、複数のキンリョウヘンをお持ちの方は、屋内に取り込むタイミングを1週間ごとにずらすことで、開花時期も数日ずらすことができます。分蜂はひと月以上にわたって順々に発生するので、キンリョウヘンの開花時期をずらすことでチャンスが広がります。
開花時期は品種によって早生から晩生までありますので、以下の開花カレンダーを参考にしてください。
