「東洋ランの大石」を訪問

2023年の秋ごろ、埼玉飯能からはるばる静岡西部まで、キンリョウヘンで有名な東洋ランの大石さんのところへ遊びに行った。キンリョウヘンを買うっていうのもひとつの目的ではあったのだが、それより、東洋ラン専門で長年やってる方そのものへの興味が尽きなくて、これは直接行くしかないなと思ったのだ。来園予約のメールでは「私共も高齢だから、はるばる来られてもあまり学ぶことはないかもしれません」と遠慮されていたが、それを押し切っての訪問だった。

その時は、いろいろと蘭の話をして、「お前やる気あるならここにあるやつ全部持ってくか?」という冗談みたいな話を振られた。さすがに即答はしかねたが、一年考えるうちに、これは蜂と植物が大好きな私がやるべき天職なのでは?という考えがふつふつと芽生えてきて、やり取りを重ねた結果、高齢で縮小する大石さんの金稜辺部門を正式に引き継ぐこととなった。

2025年春には200株のB級品を託されて、栽培の腕を磨きなさい、という試練を与えられ、今回はその結果検証で再びの訪問となった。

大石さんのキンリョウヘン圃場、葉芸品種エリア。今年は遮光率調整がうまくいかず、柄の出が良くないとのこと。達人でも、「毎年勉強」なのだという。
ソファーのある植え替え&調整エリア。この日の訪園時は、ちょうど品評会へ出す恵蘭の調整作業中だった。私たちが訪園すると、大石さんは大抵いつもここにいて、ほんとに蘭が好きな人なんだなと思う。

大石さんと私とでは、蘭(ラン)に対するスタンスがたぶん全然違う。

大石さんは正統派の鑑賞東洋蘭の世界から金稜辺を見ているし、鉢も用土も伝統的なものを使う。蘭の見た目にもとてもこだわる。

一方私は、固定種伝統野菜専門店で長年勤務しつつ、兼業で農業や養蜂を楽しんできて、蜂の世界からキンリョウヘンを入り口にランの世界に足を踏み入れたばかりの人間で、思想の根底には、その植物の原産地の環境を忠実に再現したいというような、いわば植物原理主義のようなところがある。

だから、二人の栽培法もおのずと変わってくる。

大石さんは鹿沼、赤玉、軽石のブレンドで、肥料を多用し、殺菌をして、無菌状態での栽培を目指している。遮光もしっかりとするから、葉芸種は縞が強くて、虎斑は真っ白だ。逆に、原種系は緑が濃くて葉が大きい。

一方私は、樹皮チップと炭を使い、糸状菌を殺す殺菌剤は使わずに、菌根共生を第一に考えている。肥料も自然の雨水の濃度と同じくらいに調整しているから、草勢はややおとなしい。葉芸種もやや強光に当てて免疫力を高めようとするから、縞が黄緑になっている。また原種系は陽に当ててやや黄色みを帯びる。

巴里沙農園での5か月の試験栽培を終えた株の一部を持参した。

大石さんは、私の株を見てやはり物足りないような顔をしている。これは来年秋出しの1年生ものなので、さらにあと1年は養生するロットなのだが、大石さんならもっと肥料を与えて、もっと大きくしたのだろう。陽も強すぎで「八重衣」などはもっと遮光して、もっと真っ白にしたいと思ったはずだ。

それでも、2年生の「常盤青」は、最良品ではないがこれなら出せると評価してくださったし、春に瀕死株から救出した「白玉」と「富士」については、砂利に植えていたのでは死んでいたはずだとおっしゃっていた。菌根菌栽培の可能性も全く感じていないわけではなさそうだ。

二人の栽培方針は180度違うから、意見がぶつかる所も多い。肥料と農薬の話になると特にそうだ。

それでも、他の業者やラン農家の提案を断ってまで私に金稜辺を託してくれたことがうれしい。

大石さんの園には現在2群の二ホンミツバチがいる。今年は4群いたのが2群に減ったのだという。生き残った群は、秋の夕日の中で盛んに花粉を運び込んで、冬支度を急いでいるようだった。巴里沙農園の二ホンミツバチは、現在逃去していて1群もいない。久しぶりに二ホンミツバチに会った妻は嬉しそうに笑っていた。

来年、2026年の春には、大石さんの金稜辺部門をすべて引き継ぐことになっている。

帰りの車の中で、栽培技術の向上はもちろんのこと、私に圧倒的に足りていない素質、すなわち、「東洋蘭としての金稜辺」を見る審美眼を鍛えていかなければならないなと強く思った。

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